2011年9月23日金曜日

真顔のひと

「パノラマニア十蘭」(久生十蘭著/河出文庫)より最後の「ボニン島物語」を読んで、読了。 巻末の文庫解説で歌人の石川美南さんが、十蘭の小説の主人公はたいてい真顔だ、と書かれていて、 うまいことを言うものだなと思った。 十蘭の主人公は、真顔で冗談を言い、真顔で大法螺を吹き、 真顔で恐しい苦難に耐え、真顔のままであっさり死ぬ。 言ってしまえば、何が何だか分からない。 しかし、そんなものだな、と腑に落ちて、そうありたいものだと思わせるところがある。 都会的、ますらおぶり、武士らしさ、矜持、どう言ってもちょっと違う気がするのだが、 いつも真顔の十蘭、とは言い得て妙。