2009年6月14日日曜日

円の正方形化とルイス・キャロル

また寝坊。起床は 10 時近く。珈琲だけの朝食。 雑用をしている内に昼になり、卵炒飯を作って昼食にする。 一緒に白ワインを一杯だけ。 午後は読書や、キャロルの翻訳の下読みなど。 夕方頃から急に空が暗くなってきた。 窓を開けると、かなりの蒸し暑さ。夕立になりそうだ。 夕食はまた御飯を炊いて、味噌汁と常備菜の清貧の食卓。 食後に煎茶を一杯。 夜はルイス・キャロルこと、C.L.ドジソン(ドッドソン)のパンフレットの翻訳を始める。 最初のターゲットは、"Simple Facts About Circle-Squaring" という文書に決めた。 ドジソンも当時のけっこう有名な数学者として、 世の数学マニアたちからの「円の正方形化(円積問題)」 に成功したと主張する手紙に困り果てていたらしく、 この問題についての本を書こうとしていた(しかし、完成しなかった)。 この文書はそのために用意された文章の一つで、 第1章「はじめに」になる予定だったもの。

円の正方形化とは、古代ギリシア時代から知られている幾何学の問題で、 コンパスと(目盛のない)定規だけを使って、与えられた円と同じ面積を持つ正方形を作図せよ、 というもの。 現代的に言えば、これは円周率をある種の代数方程式の解として導けという問題だが、 円周率は超越数なので、不可能である。 この不可能性は 1882 年にリンデマンによって証明された。興味深いことに、 ドジソンがこの文書を書いたのがまさにその、1882 年である。 彼がリンデマンの結果を知っていたのかどうか、ちょっと気になる。 おそらく知っていただろうと思うが、この文書の中に具体的な記述はない。 と言うのも、この文書自体は、 初歩的な誤りに満ちた手紙を沢山受け取ることに困ったドジソンが、 一種のお説教として書いたものなので、そこまで高度な話の出番がない。 まずは、ウォータールーの戦いが別の日に起きたと主張する人を例に挙げて、 円周率が 4 より大きいとか 2 より小さいというような主張は、 まともな人には絶対相手にされないんだよ、ということが、 丁寧に説明されている。そして、 円に外接、内接する多角形をどんどん近くとると、 円の面積をいくらでも良い精度で近似できるので、有理数ではありえない、 ということが、良く読むと、ほのめかされている(論理的には不十分だが)。 これでドジソンを困らせていた変人たちを却下するに十分だったろうが、 もちろん、 これだけで円積問題が不可能であることにはならない。 リンデマンの結果をその時点で知っていたかはやはり謎である。

「円の正方形化」の仲間に、与えられた角をコンパスと定規だけで三等分せよ、 という「角の三等分問題」があって、おそらくこちらの方が有名だろう。 これも不可能であることが証明されている(1837年、ワンツェル)。 しかし、今でも三等分問題を解決したという手紙(email)が、 有名な数学者のところには届き続けているらしい。「円積問題」もそうかも知れない。 そういう困った人々を指す「三等分家("Trisectors")」という名前もある。 円の正方形化の方は、「円正方形化人(?) ("Circle-Squarers")」 と言うらしい。 私も過去に何度か、アマチュア数学者から「新発見」の手紙やメイルを受け取ったことがあるが、 残念ながら(?)、すべて、価値はなくても正しく立派なものだった。 (例えば、微分や積分を表す独自の記号を用いて、その記号の満たす「公式」集を送ってきた人など。 これは、演算子法の初歩的な部分を独自に導いたに過ぎず、 残念ながら時間の無駄だが、立派なものだと言えよう)。 おそらく、数学的に不可能であることが証明されている問題にチャレンジするほど気合の入った人は、 また一段、レヴェルが高いというか、ステージが進んでいるので、 もっと有名な数学者か、あるいは日本数学会とか、国際数学者会議にメイルを書くのだろう。