2012年1月14日土曜日

「モンテ・カルロは気の毒ね」/巴里の貧乏

今朝は上天気で温かい。 「音楽の泉」を寝床で聞いてのち、いつもの朝食。 朝風呂に入ったり、のんびり。 昼食はカレーライス、蕪の漬物、タイ屋台風スープ。 午後も読書などで、のどかに過す。夕食の支度。 鰻の櫃まぶし、ふろふき大根に柚子味噌、蕪の漬物、里芋と人参と長葱の味噌汁。

「十蘭レトリカ」(久生十蘭著/河出文庫)より、 「モンテカルロの下着」を読む。 巴里に留学中のお嬢さんの同居二人組が(一人は理系、一人は文系)、 貧乏からの華麗なる脱出を狙って、モンテカルロで振袖姿も勇ましくルウレットの大勝負に挑む、 という短編。 十蘭とルウレットと言えば名品「黒い手帳」だが、 こちらは楽しくも微笑ましい冒険譚。 ちょこっと「ロオ・ド・グラン・ノンブル」(「大数の法則」)や、 数式が出てくるのも御愛嬌、という感じ。 文章がまた可笑しい。 理系お嬢さんがルウレット必勝法を閃いて、 「モンテ・カルロは気の毒ね」 と言い放つところとか、 いよいよ大勝負に挑むその時に文系お嬢さんが理系お嬢さんの手を 「ミシミシと握りしめ」て、 「負けちゃいなサイ」 と励ますところとか。

貧乏話も可笑しい。 朝の七時前に巴里中央市場(レ・アール)に行くと、 二法(フラン)で生きのいい鰯を十六匹と、 他に景品のレモンを一つくれる。 鰯を日本風のぬたや、伊太利(イタリー)風の鰯の塩汁(ミネストラ・ディ・サルディラ) に至るまで千変万化に用いて取っ換え引き換えしていると、 「必ずしも飽くということはない」、そうだ。 かつ、 「レモンのほうは輪切りにして紅茶の上に浮かし、 さんざしゃぶったあとその皮は砂糖壺の中へ押し込んで文旦漬をつくり、 これをゆうゆうとお茶請けにする」。 このように、巴里在住の実直な日本人の間に一時、 ブルタアニュの油鰯が猖獗したことがあった、と言うのだが、 十蘭自身の経験だろうか(十蘭も若い頃、巴里にレンズ工学を学んだ)。 「黒い手帳」とはネガとポジの関係と言えるかも知れない、 「モンテカルロの下着」でした。