2009年8月1日土曜日

フランス料理を私と、を私と

9 時くらいまでゆっくり寝た。 珈琲、トースト、ソーセージと目玉焼き、バナナの朝食。 洗濯、家計簿つけ、手紙類の整理などの家事。 昼食の支度まで、読書。 「フランス料理を私と」(伊丹十三/文藝春秋)から、 「小津安二郎」の回(鼎談の相手は蓮實重彦と岸恵子)を読んだり。 お好み焼き屋でのキスシーンの話とか、しみじみする。

この本は「フランス料理と私」ではなくて、 「フランス料理を私と」であるところが味噌。 伊丹十三氏が「諸先生方のお宅へ押しかけてはフランス料理教室を実演する」 というものである。各お宅へ出張して料理するのは伊丹氏本人。 毎回、辻調フランス料理主任教授(当時)の水野邦昭先生とその助手(岩井清次さん)を伴って訪問し、 水野先生に直接指導してもらいながら、伊丹氏がフランス料理を作る。 例えば「小津安二郎」の回では、 タンポポのサラダのミモザ風、舌平目のクネル巻き帆立貝添え白ワインソース、 鶏のヴィネガー風味リヨン風だった。 ここのパートはレシピとして使えるように、 先生や伊丹氏の説明とともに場面毎にカラー写真が豊富に入っている (とは言え、本格的過ぎて、家庭でレシピとして使えるとは思えない)。 そして出来上がった料理を、 その回のテーマの専門家であるお家の方と一緒に食べながら、 気楽にお話をするのだ。 テーマは、「育児論」(岸田秀)、 「神話学」(北沢方邦)、「言語学」(西江雅之)、「進化論」(日高敏隆)、 「男と女」(山本哲士)、「小津安二郎」(蓮實重彦と岸恵子)、 「錬金術」(種村季弘と辻静雄)、などの全 12 回である。すごすぎる。 これだけの材料をつめこんで、毎回多くて 30 ページという、超贅沢。 最終回は伊丹氏がコンソメ作りにチャレンジするのだが、 この本自体が本格的なコンソメであると言えよう。

しかも、料理を食べながらの会話が実に良い。 「小津」の回の岸恵子なんか、大したことは言っていないのに、 実に良くって、読んでいるとうっかり涙がこぼれるくらいなのだ。 また、最終回では辻静雄先生が「錬金術」をテーマに、 料理、料理人、教育などについて語っている。 こんなことを簡単に教わっちゃっていいのだろうか、 と思うほどの英知が山盛りだ。 この回を読むだけでも読む前より十倍賢くなる。 例えばですね、料理人にとって味の鑑定家である必要があるのか、 という質問に対して、あっさり「ないと思う」と答えて、 では何が大事か、次のように言っているのですよ。 料理人は肉体労働者なのだ、とにかく早く作れること、 作るという作業のスピードがまず大切だ、 そのためには体力がいる、それから食べ物商売だから、 疲れたときの顔がいいやつ じゃないとだめだ、と。 「くたびれちゃった時のね、顔つきのいいやつじゃないと」、だそうだ。 疲れたときの顔がいいやつですよ、あなた。 どきっとしますよ、これは。 毎回、こんなに話が面白いのは、 やはり伊丹氏には聞き書きの才能があったのだろう。 今では TV でも、芸能人が料理をして、 一緒に食べて、雑談する、というようなものがいくらでもある。 しかし、この本を読むと、比べるのも失礼だとは言え、 TV がいかに遅れていて、 いかに下らない安物であるか、ということが分かる。 しかしグルメ番組は跋扈していて、 この本(1987年刊、2500円)はずっと品切れになったままだ。

昼食はナポリタンと赤ワインを一杯だけ。 午後はまずお風呂に入って、少し昼寝……と思ったら、 また 3 時間も寝てしまった。相変わらず、いくらでも眠れる。 夕食は冷やし蕎麦など。